【2026年度診療報酬改定】がん・難病・感染症の変更点とは?がんゲノム医療・緩和ケア拡大・AMS評価強化を病院・クリニック向けに解説

医療

【2026年度診療報酬改定】がん・難病・感染症の変更点とは?
がんゲノム医療・緩和ケア拡大・AMS評価強化を病院・クリニック向けに解説

造血器腫瘍へのがんゲノム適用拡大、緩和ケア対象に末期腎不全追加、抗菌薬適正使用加算の拡充など全変更点を網羅。

2026年診療報酬改定
がん
がんゲノム医療
緩和ケア
感染症
抗菌薬適正使用
令和8年度改定

2026年(令和8年)6月の診療報酬改定では、がん・難病・感染症の領域でも多くの評価見直しが行われました。がんゲノム医療の対象疾患拡大・外来化学療法の評価整備・緩和ケア対象の拡充、そして抗菌薬適正使用(AMS)体制への評価強化と、がん診療から感染症対策まで幅広い変更が含まれています。

この記事では「がん治療でどう変わるか」「緩和ケアの対象はどう広がるか」「感染症対策の評価はどう変わるか」の3点を、病院・クリニック担当者向けにわかりやすく整理します。

① 改定の全体像・背景

がん・難病・感染症の領域は「安心・安全でアウトカムに着目した医療の推進」という今改定の柱の一つとして位置づけられています。特にがんゲノム医療の普及促進、感染症対策(AMR:薬剤耐性対策)の強化が重要テーマです。

💡 今改定のがん・難病・感染症領域における主な変更の柱
  • がんゲノム医療:造血器腫瘍への対象拡大、専門家会議要件の緩和
  • 遺伝性疾患(HBOC):未発症者の保険診療による遺伝子検査を可能に
  • 外来化学療法:皮下注射抗がん剤の点数区分新設、安全対策(CSTD)加算新設
  • 緩和ケア:末期腎不全・末期呼吸器疾患等を新たに対象に追加
  • 感染症:抗菌薬適正使用(AMS)体制の評価強化

② がんゲノム医療の評価拡充

がんゲノムプロファイリング検査・評価提供料について、今改定で大きな変更が行われました。

造血器腫瘍・類縁疾患への適用拡大

従来のがんゲノムプロファイリング検査・評価提供料は固形がんを主な対象としていましたが、今改定で造血器腫瘍または類縁疾患を対象とする場合にも算定可能となりました。白血病・悪性リンパ腫・骨髄腫等の血液がん患者への適用が広がります。

項目 改定前 改定後
がんゲノムプロファイリング検査の対象 主に固形がん 固形がん+造血器腫瘍・類縁疾患
がんゲノムプロファイリング評価提供料の対象 主に固形がん 造血器腫瘍・類縁疾患でも算定可

専門家会議要件の緩和

がんゲノムプロファイリング評価提供料の算定にあたり、一定の要件を満たす場合に専門家会議(エキスパートパネル)を省略しても算定できるよう要件が緩和されました。これにより、より迅速に最適な抗がん剤へのアクセスが可能となります。

💡 エキスパートパネル省略が認められる意義

エキスパートパネルは専門家が集まって検査結果を議論する会議ですが、開催に時間・手間がかかり、患者が検査結果を得るまでのタイムラグが課題でした。要件を満たす施設では省略が認められることで、患者が適切な治療薬に速やかにアクセスできるようになります。

③ 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)への対応

今改定では、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の血縁者で、がんを発症していない者についても、保険診療として遺伝子検査を実施できるようになりました。

HBOCとは
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)は、BRCA1またはBRCA2遺伝子に病的バリアントを持つことで、乳がん・卵巣がん等の発症リスクが著しく高まる遺伝性疾患です。患者本人だけでなく、血縁者もリスクを共有しており、発症前の遺伝子検査・予防的介入の重要性が高まっています。
対象 改定前 改定後
HBOC患者(がん発症済み) 保険診療として遺伝子検査が可能 引き続き保険診療可
HBOC患者の血縁者(がん未発症) 保険適用外 保険診療として遺伝子検査が可能
⚠ 注意:遺伝カウンセリングとの連携が重要

がん未発症者への遺伝子検査は、遺伝カウンセリング体制との連携が必須です。陽性結果が判明した場合の心理的支援・予防的介入の説明など、適切なサポート体制を整えたうえで実施してください。

④ 外来腫瘍化学療法診療料の見直し

外来で抗がん剤治療を行う患者に算定する外来腫瘍化学療法診療料について、皮下注射の抗がん剤を使用する場合の点数区分が新設されました。

背景:皮下注射剤の抗がん剤が増加
近年、従来は点滴静注で投与されていた抗がん剤(例:トラスツズマブ、リツキシマブ等)の皮下注射製剤が相次いで承認されています。皮下注射は投与時間が短く患者の負担が小さい反面、処置内容が異なることから、別途の点数区分を設けて適切に評価するものです。
区分 内容
従来区分 点滴静注での外来化学療法を評価
新設区分 皮下注射の抗がん剤を使用した場合の外来化学療法を評価

⑤ 閉鎖式接続器具(CSTD)加算の新設

抗がん剤を調製・投与する際の医療者への曝露リスクを低減するため、閉鎖式薬物移送システム(CSTD:Closed System Transfer Device)使用に関する加算が新設されました。

項目 内容
対象 外来・入院での抗がん剤投与時にCSTDを使用した場合
目的 調剤・投与時の医療従事者(薬剤師・看護師等)の抗がん剤曝露リスク低減
評価の方向性 医療安全の観点から、CSTD導入コストを診療報酬で一部補填
💡 CSTDとは

CSTD(Closed System Transfer Device:閉鎖式薬物移送システム)は、抗がん剤を注射器や点滴バッグに移送する際に、蒸気・液体の漏出を防ぐ密閉構造の器具です。薬剤師・看護師の職業性抗がん剤曝露を防ぐ安全対策として世界標準となっており、今改定でその使用が診療報酬上も評価されることになりました。

⑥ 緩和ケアの対象疾患拡大

緩和ケアの対象疾患が大きく拡充されました。従来は主にがん患者を対象としていましたが、今改定で非がん疾患への適用が明確に広がりました。

緩和ケアの対象に追加された疾患

対象疾患 状況
末期の悪性腫瘍(がん) 従来から対象
末期心不全 前回改定から対象
末期呼吸器疾患 今改定で追加
末期腎不全(透析中止を含む) 今改定で追加
末期腎不全の患者は、透析離脱後に身体的・心理的症状が生じることがあります。今改定ではこうした患者への緩和ケア診療加算や外来緩和ケア管理料の算定が可能となり、透析医療と緩和ケアの連携が促進されます。

緩和ケア病棟での神経ブロックの出来高化

緩和ケア病棟では、疼痛管理のために行う神経ブロックが包括評価から除外され、出来高で算定できるようになりました。緩和ケア病棟における疼痛コントロールの質向上につながります。

💡 包括から出来高への変更の意味

緩和ケア病棟では多くの処置・検査が入院料に「包括」されています。神経ブロックが包括から除外されたことで、施術を行った際に別途点数を算定できるようになります。疼痛管理に積極的に取り組む緩和ケア病棟にとっては収入増につながります。

⑦ 抗菌薬適正使用体制加算(AMS)の拡充

薬剤耐性(AMR)対策の推進として、抗菌薬適正使用体制(AMS:Antimicrobial Stewardship)への評価が拡充されました。

抗菌薬適正使用体制加算の新区分

Access抗菌薬(耐性リスクが低い第一選択抗菌薬)の使用割合が高い施設への加算(5点)が新設されました。

算定要件 内容
サーベイランス参加 抗菌薬使用状況を把握できるサーベイランスに参加していること
Access抗菌薬使用割合 直近6か月間のAccess抗菌薬使用割合が60%以上
または参加施設の上位30%以内
加算点数 5点
Access抗菌薬とは(WHO分類)
WHOはすべての抗菌薬を「Access(第一選択薬)」「Watch(第二選択薬)」「Reserve(最終手段)」の3群に分類しています(AWaRe分類)。日本ではAccess抗菌薬の使用割合が他国と比べて低いことが課題とされており、今改定でAccess抗菌薬の積極的活用を診療報酬で後押しする評価が設けられました。

⑧ 感染対策向上加算の見直し

感染対策向上加算についても今改定で見直しが行われました。感染症法に基づく協定締結医療機関としての機能と、日常的な感染対策活動の評価が連動する体系に整理されています。

変更点 内容
新興感染症対応との連携 感染症法に基づく協定を締結した医療機関(発熱外来・入院受入等)との連携評価
感染対策活動の実績評価 院内感染対策のアウトカム(感染率等)を踏まえた評価体系への整理
地域連携の強化 地域の感染対策ネットワークへの参加・情報共有の評価

⑨ 注意事項・よくある間違い

⚠ 注意①:造血器腫瘍へのがんゲノム検査は既存体制の届出確認が必要

造血器腫瘍・類縁疾患にがんゲノムプロファイリング検査の適用が拡大されますが、算定にはがんゲノム医療中核拠点病院等との連携体制など、一定の施設基準が求められます。すでに固形がんで届出をしている施設でも、造血器腫瘍対応に必要な追加要件がないか確認が必要です。

⚠ 注意②:HBOC未発症者への検査は遺伝カウンセリング体制が前提

がん未発症の血縁者への遺伝子検査は、遺伝カウンセリングを適切に実施できる体制が求められます。検査前・検査後のカウンセリング体制が整っていない施設では、外部の遺伝専門医療機関との連携が必要になります。

⚠ 注意③:緩和ケアの対象拡大は「末期」の判断が重要

末期腎不全・末期呼吸器疾患が緩和ケアの対象に加わりましたが、算定にあたっては「末期」の状態にあることを医師が判断・記録することが必要です。透析を継続中の患者がすべて対象になるわけではありません。

⚠ 注意④:AMS加算のAccess抗菌薬割合は直近6か月で判定

抗菌薬適正使用体制加算の新区分は、直近6か月間のAccess抗菌薬使用割合(60%以上)または参加施設上位30%の実績が要件です。サーベイランスへの参加と日常的なデータ収集が前提となるため、未参加施設は早めに登録手続きを進めてください。

⑩ よくある質問

Qがんゲノムプロファイリング検査のエキスパートパネル省略は、どのような場合に認められますか?
A一定の要件(例:標準的な治療経過後、検査結果に基づく推奨治療薬が明確等)を満たす場合に省略が認められます。省略が認められるケースの詳細は告示・通知で確認してください。省略できない場合には引き続きエキスパートパネルの実施が必要です。
Q皮下注射の抗がん剤を使用する場合、外来腫瘍化学療法診療料はどう算定しますか?
A今改定で皮下注射抗がん剤を使用した場合の点数区分が新設されました。従来の点滴静注での区分とは別の区分で算定します。対象薬剤や具体的な点数については改定後の告示・通知をご確認ください。
Q緩和ケア対象に末期腎不全が加わりましたが、透析を継続中の患者も算定できますか?
A透析を継続中であっても末期状態と判断される患者(例:透析離脱を選択した患者、多臓器不全等で積極的治療の限界に達した患者)は対象となります。ただし、透析継続患者であっても主治医が末期状態と判断し、緩和ケアの提供が適切と認める場合が算定要件です。単に透析中であることだけで算定できるわけではありません。
QCSTDの加算は、外来・入院どちらでも算定できますか?
ACSTD使用加算は外来・入院ともに算定対象となります。抗がん剤を調製・投与する際にCSTDを使用した場合に算定できます。具体的な算定要件(対象薬剤・使用場面等)は告示・通知で確認してください。
QAccess抗菌薬の使用割合60%という基準は、どのように算出しますか?
A抗菌薬サーベイランス(J-SIPHE等)に参加し、直近6か月間に使用した抗菌薬の中でAccess抗菌薬(WHO・AWaRe分類)が占める割合を算出します。60%以上または参加施設上位30%以内であれば算定要件を満たします。具体的な計算方法はサーベイランス参加の手引きおよび算定要件通知で確認してください。

⑪ まとめチェックリスト

がんゲノムプロファイリング検査の造血器腫瘍への適用拡大に対応した体制(施設基準・届出)を確認した
エキスパートパネル省略要件を把握し、迅速な評価提供体制を整備した
HBOC未発症血縁者への遺伝子検査に対応する遺伝カウンセリング体制(自院または連携)を確認した
外来腫瘍化学療法診療料の皮下注射抗がん剤区分の新設を請求システムに反映した
CSTD(閉鎖式接続器具)加算の新設に対応し、CSTDの整備・算定手続きを準備した
緩和ケアの対象拡大(末期腎不全・末期呼吸器疾患)に対応した算定体制を整備した
緩和ケア病棟で神経ブロックを実施している場合、出来高算定への切り替えを確認した
抗菌薬適正使用体制加算の新区分に向け、サーベイランム(J-SIPHE等)への参加とAccess抗菌薬使用割合を確認した
感染対策向上加算の見直しに対応した届出・体制整備を確認した

【免責事項】
本記事は2026年4月時点の情報(厚生労働省公表資料・答申・告示・通知等)をもとに作成しています。診療報酬の算定要件・点数は改定後に公表される告示・通知が正式情報です。算定にあたっては必ず最新の通知・施設基準をご確認ください。また、個別の算定可否については担当の地方厚生局または専門家にご相談ください。

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