令和8年度診療報酬改定では、身体的拘束の最小化に向けて、管理者等を中心に「身体的拘束を原則として行わない」組織風土を醸成し、組織的に特に質の高い取組を行う体制を評価するため、身体的拘束最小化推進体制加算が新設されます。対象病棟では、病院長・看護部長による方針表明、全職員への講習、最小化チーム、委員会、用具管理、患者・家族説明、実施割合の管理、院内掲示・ウェブサイト掲載まで、病棟単位ではなく病院全体での準備が必要です。
参考資料:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定」関連資料(身体的拘束の最小化の推進、30ページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001673287.pdf
この記事でわかること
- 身体的拘束最小化推進体制加算の点数と対象病棟
- 同じ入院料を算定する病棟全体で届け出る際の注意点
- 施設基準として求められる院内体制、講習、委員会、巡回、用具管理
- 身体的拘束を実施した日数割合の考え方と管理方法
- 患者・家族説明、院内掲示、ウェブサイト掲載で準備しておきたい内容
① 新設される加算の概要
身体的拘束最小化推進体制加算は、身体的拘束の最小化に向けた特に高い取組を評価する新たな加算です。身体的拘束を単に「減らす」だけでなく、病院長や看護部長など管理者が方針を明確にし、職員教育、チーム活動、委員会、患者・家族説明、実施状況の公開まで含めて、組織的に取り組む体制が問われます。
| 項目 | 内容 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|---|
| 名称 | 身体的拘束最小化推進体制加算 | 令和8年度改定で新設 |
| 点数 | 1日につき40点 | 対象入院料を算定する日数との関係を確認 |
| 評価の趣旨 | 身体的拘束を原則として行わない組織風土を醸成し、組織的に質の高い取組を行う体制を評価 | 病棟単位の取組だけでなく、病院全体の体制整備が必要 |
② 対象病棟
資料では、身体的拘束最小化推進体制加算の対象病棟として、療養病棟入院基本料、障害者施設等入院基本料、有床診療所療養病床入院基本料、特殊疾患入院医療管理料、地域包括ケア病棟入院料、特殊疾患病棟入院料を算定している病棟が示されています。
| 対象となる入院料等 | 確認したいこと | 院内資料の例 |
|---|---|---|
| 療養病棟入院基本料 | 対象病棟と算定日数の把握 | 病棟別入院料一覧、医事システム設定 |
| 障害者施設等入院基本料 | 身体的拘束の実施状況と解除検討の記録 | 行動制限・身体的拘束台帳、看護記録 |
| 有床診療所療養病床入院基本料 | 小規模施設でも講習・方針表明・掲示等の体制が必要 | 研修記録、院内掲示、説明文書 |
| 特殊疾患入院医療管理料 | 患者特性を踏まえた最小化チームの関与 | チーム巡回記録、解除検討記録 |
| 地域包括ケア病棟入院料 | 高齢患者の転倒・抜去リスクと拘束最小化の両立 | リスク評価、家族説明記録、代替用具導入記録 |
| 特殊疾患病棟入院料 | 同じ入院料を算定する病棟全体で届出対象となる点 | 届出対象病棟一覧、病棟横断の運用手順 |
注意したいのは、「同じ入院料を算定する病棟全体で届け出る」とされている点です。特定の1病棟だけが取組を満たしていても、同じ入院料を算定する他病棟の体制が整っていなければ、届出前に確認が必要です。
③ 施設基準の全体像
施設基準では、方針表明、職員教育、用具管理、委員会、チーム巡回、代替用具の提案・導入、入棟制限をしないこと、患者・家族説明、実施割合、掲示・ウェブ掲載など、多面的な要件が示されています。紙のマニュアルを作るだけでは足りず、実際に運用されていることを記録で示せるようにしておく必要があります。
| 施設基準の柱 | 求められる内容 | 準備する証跡の例 |
|---|---|---|
| 管理者の表明 | 病院長や看護部長が、身体的拘束最小化に病院全体で取り組むことを表明し、職員に周知 | 方針文書、院内通知、職員説明会資料 |
| 職員講習 | 身体的拘束最小化に関する講習を年2回以上実施し、入院患者に関わる全職員が受講 | 研修計画、受講者名簿、未受講者フォロー記録 |
| 最小化チーム | 用具管理、使用状況、解除に向けた検討状況を把握し、必要に応じて提案 | チーム名簿、巡回記録、解除提案記録 |
| 委員会 | 具体的な取組を検討する委員会を3か月に1回以上実施 | 委員会規程、議事録、改善計画 |
| 用具管理 | 身体的拘束に使用する用具を病棟外の1か所で管理 | 用具保管場所、貸出台帳、返却記録 |
| 患者・家族説明 | 原則行わない方針、拘束を行うリスク・行わないリスク等を説明し、意向を十分に聴取 | 説明文書、同意・意向確認記録、看護記録 |
| 実施割合 | 加算対象入院料を算定した日数に占める身体的拘束実施日数の割合が3%以下。届出から1年間は5%以下 | 月次集計、病棟別集計、分母・分子の定義書 |
| 情報公開 | 方針、取組内容、実施状況を院内掲示およびウェブサイト掲載 | 掲示物、Web掲載ページ、更新履歴 |
④ 病院長・看護部長の方針表明と職員周知
この加算では、現場の努力だけでなく、管理者が身体的拘束の最小化を病院全体の方針として表明していることが求められます。病院長や看護部長のメッセージを文書化し、職員向けポータル、院内メール、研修、委員会など複数の経路で周知しておくと、後から確認しやすくなります。
方針文書には、「身体的拘束を原則として行わない」「やむを得ず検討する場合は代替策を先に検討する」「実施中も解除に向けて継続的に見直す」といった運用の方向性を明確にしておくと、病棟ごとの判断がぶれにくくなります。
⑤ 年2回以上の講習と全職員受講の管理
院内講習は年2回以上とされ、入院患者に関わる全ての職員が受講していることが求められます。看護職員だけでなく、医師、リハビリ職、薬剤師、管理栄養士、MSW、看護補助者、病棟に関わる委託職員など、対象範囲を院内で整理しておく必要があります。
| 講習管理の項目 | 確認ポイント | 実務上の工夫 |
|---|---|---|
| 対象者リスト | 入院患者に関わる全職員を部署横断で抽出 | 人事台帳、委託職員リスト、病棟出入り職種を照合 |
| 講習回数 | 年2回以上実施 | 年度初めに年間計画へ組み込む |
| 受講管理 | 全員受講を確認 | 受講者名簿、eラーニング履歴、未受講者フォロー |
| 講習内容 | 拘束の原則禁止、代替策、リスク説明、解除検討、記録 | 事例検討を入れると現場運用に落とし込みやすい |
⑥ 最小化チーム・委員会・巡回の運用
身体的拘束最小化チームには、身体的拘束に使用する用具を病棟外の1か所で管理し、使用状況と解除に向けた検討状況を把握し、必要に応じて解除に向けた提案を行う役割が示されています。また、身体的拘束の最小化に向けた具体的な取組を検討する委員会は、3か月に1回以上の実施が求められます。
身体的拘束を行われている患者がいる場合には、最小化チームによる巡回を定期的に行い、病棟職員とともに解除に向けた具体的な検討を行う必要があります。巡回記録には、拘束の理由、代替策、解除の見通し、次回評価日、担当者を残しておくと、継続的な見直しが確認しやすくなります。
⑦ 用具管理と代替用具の導入
身体的拘束に使用する用具は、病棟外の1か所で管理することが示されています。病棟内に常時置かれていると、使用開始のハードルが下がり、最小化の取組が形骸化しやすくなります。貸出・返却の台帳を作り、使用開始時には最小化チームや管理者へ情報が入る仕組みを整えておくとよいでしょう。
また、身体的拘束を行わずにケアするための用具の導入について、職員が提案でき、積極的に導入する仕組みを有することも要件に含まれます。離床センサー、低床ベッド、見守り機器、環境調整、せん妄予防のケア用品など、院内の提案ルートと購入・試用の判断フローを明確にしておきましょう。
⑧ 入棟制限をしないことと患者・家族説明
施設基準では、身体的拘束を検討する可能性のある患者の入棟を制限していないことが示されています。つまり、加算を算定するために、身体的拘束の可能性がある患者を受け入れないという運用は想定されていません。受け入れたうえで、原則拘束を行わない方針と、必要時のリスク説明・代替策検討・解除に向けた取組を整えることが重要です。
身体的拘束が実施される可能性のある全ての患者に対しては、病院として身体的拘束を原則行わない方針であること、身体的拘束を行うリスクと行わないリスク等を説明し、患者および家族の意向を十分に聴取することが求められます。説明文書は、単なる同意書ではなく、方針説明と意思確認の記録として設計しておくと実務に合います。
⑨ 実施割合3%以下の管理
身体的拘束最小化推進体制加算では、加算を算定することのできる入院料を算定した日数に占める、身体的拘束を実施した日数の割合が3%以下であることが示されています。ただし、届出から1年間は5%以下とされています。
| 集計項目 | 見方 | 確認資料 |
|---|---|---|
| 分母 | 加算を算定することのできる入院料を算定した日数 | 医事システムの入院料算定日数、病棟別患者日数 |
| 分子 | 身体的拘束を実施した日数 | 身体的拘束台帳、看護記録、用具貸出台帳 |
| 基準 | 3%以下。届出から1年間は5%以下 | 月次集計表、委員会資料、届出日管理 |
| 管理単位 | 同じ入院料を算定する病棟全体で届出する点に注意 | 病棟別・入院料別の集計表 |
実施割合は、届出直前だけでなく、月次で継続的に確認する運用が必要です。身体的拘束台帳、看護記録、用具貸出台帳、医事システムの入院料算定日数がずれていると、分子・分母の定義が不明確になります。施設基準担当、看護部、医事課で集計ルールをそろえておきましょう。
⑩ 院内掲示・ウェブサイト掲載
身体的拘束を原則として行わない方針、取組の内容、身体的拘束の実施状況、実施割合等について、院内掲示およびウェブサイトに掲載していることも要件に含まれます。既存の病院機能評価資料や医療安全資料とは別に、患者・家族にも伝わる形で公開することが大切です。
| 掲載項目 | 内容の例 | 運用上の注意点 |
|---|---|---|
| 方針 | 身体的拘束を原則として行わない病院方針 | 病院長・看護部長の表明と整合させる |
| 取組内容 | 最小化チーム、委員会、職員研修、巡回、代替用具導入 | 実際に運用している内容を記載 |
| 実施状況 | 身体的拘束の実施状況、実施割合等 | 更新頻度、集計期間、担当部署を明確にする |
| 掲載場所 | 院内掲示、病院ウェブサイト | 院内掲示物の掲示日、Web更新履歴を残す |
⑪ 医療機関が準備しておきたいこと
| 準備事項 | 確認する内容 | 担当部署の例 |
|---|---|---|
| 対象病棟の整理 | 対象入院料、同じ入院料を算定する病棟全体の範囲 | 医事課、施設基準担当 |
| 方針文書の作成 | 病院長・看護部長の表明、職員周知 | 病院長室、看護部、医療安全 |
| 講習計画 | 年2回以上、入院患者に関わる全職員の受講 | 教育担当、看護部、人事 |
| 最小化チーム | メンバー、役割、巡回、解除提案、用具管理 | 医療安全、看護部、リハビリ部門 |
| 委員会運営 | 3か月に1回以上の開催、議事録、改善策 | 医療安全委員会、身体的拘束最小化委員会 |
| 台帳整備 | 身体的拘束実施日数、理由、解除検討、用具貸出 | 病棟、看護部、医事課 |
| 患者・家族説明 | 原則行わない方針、リスク説明、意向聴取 | 主治医、看護師、MSW |
| 公開資料 | 院内掲示、ウェブ掲載、更新履歴 | 施設基準担当、広報、Web担当 |
⑫ 届出前チェックリスト
- 対象入院料と対象病棟を一覧化した
- 同じ入院料を算定する病棟全体で届出要件を確認した
- 病院長・看護部長による身体的拘束最小化の方針表明を文書化した
- 職員周知の記録を残せるようにした
- 年2回以上の講習計画を作成した
- 入院患者に関わる全職員の受講対象者リストを作成した
- 身体的拘束最小化チームのメンバーと役割を決めた
- 身体的拘束用具を病棟外の1か所で管理する運用に変更した
- 委員会を3か月に1回以上開催できる年間予定を作成した
- 巡回記録、解除検討記録、代替策提案記録の様式を整えた
- 患者・家族向け説明文書と意向聴取の記録方法を整備した
- 身体的拘束実施割合を月次で集計できるようにした
- 院内掲示とウェブサイト掲載の内容・担当・更新頻度を決めた
FAQ
Q1. 1病棟だけ体制が整っていれば届出できますか。
資料では、同じ入院料を算定する病棟全体で届け出るとされています。同じ入院料の病棟が複数ある場合は、全体で施設基準を満たしているか確認が必要です。
Q2. 講習は看護職員だけでよいですか。
いいえ。入院患者に関わる全ての職員が受講していることが求められます。医師、リハビリ職、薬剤師、管理栄養士、MSW、看護補助者など、対象職種を院内で整理しましょう。
Q3. 身体的拘束の可能性がある患者を入棟制限してもよいですか。
施設基準では、身体的拘束を検討する可能性のある患者の入棟を制限していないことが示されています。受け入れたうえで、原則拘束を行わない方針、代替策、解除検討、説明・記録を整えることが重要です。
Q4. 実施割合は何%以下が必要ですか。
加算を算定できる入院料を算定した日数に占める身体的拘束を実施した日数の割合が3%以下とされています。届出から1年間は5%以下です。分母・分子の定義を院内で統一して集計しましょう。
身体的拘束最小化推進体制加算は、現場の努力を点数化するだけでなく、病院全体で「原則行わない」文化と仕組みを整えることが問われる加算です。届出を検討する医療機関は、医事課、看護部、医療安全、病棟、リハビリ部門、広報・Web担当が同じチェックリストを見ながら、記録と公開の体制まで準備しておきましょう。

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